SIG-KST:知識・技術・技能の伝承支援研究会(人工知能学会 第2種研究会)
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活動・趣旨

1. 研究会の概要

工業製品や社会の基幹インフラは情報技術の浸透に伴い高度かつ複雑化している。これらは統合されたシステムとして機能しているが、安全かつ効率的な運用には、技術や組織やポリシー等に関する知識や経験の蓄積とそれらに基づいた合理的な意思決定が必要である。本研究会では、知識や技術の組織内の伝承や蓄積の手法、伝承された知識を意思決定に有効活用するための方法論などを研究対象とする。

2. 設立の目的

団塊の世代の大量退職による知識・技術・技能の伝承問題、いわゆる2007年問題が当時注目を集め、造船や重機をはじめさまざまな産業ドメインでその対策が試みられた。日本の製造業の国際競争力を支えてきた団塊の世代の熟練技術者、熟練工の知識・技術・技能を若手技術者に伝えることは、今後の日本の国際競争力を維持する上で非常に重要であり、必須の課題であった。
知識・技術・技能の伝承はナレッジマネジメントの一つであり、一般的には熟練者の知識・技術・技能を知識コンテンツとして形式化し、再利用可能な状態で提供することで実現される。例えば、JSTの失敗知識データベースなどは知識コンテンツの代表例と考えられる。現在では伝承支援のための商用システムも多数存在し、テキスト処理・コンテンツ管理・メタデータ・データマイニングなど要素技術も充実しつつある。しかし、実際に知識を形式化する方法や形式化された知識コンテンツを蓄える知識レポジトリの運用については、他の組織での成功事例に倣っても企業文化やドメインの違いにより同様の成果は得られず、試行錯誤や現場での工夫にその成否がかかっている。
このような背景から、専門性が高い業務の知識・技術・技能の伝承の実際について考える。専門性が高い業務ではその業務に関わる人員も限られるため、プロセスの標準化よりも熟練者の「暗黙知」による運用が行われる。知識・技術・技能の伝承をスムーズに行うにはこれらの「暗黙知」を「形式知」に記述する必要がある。造船業の業界団体の調査で、造船の基本設計における熟練者の「暗黙知」や「薀蓄」の伝承には既存のシステムの組み合わせよりも設計ワークフローに注目した知識管理システムが有効であることが報告されている。造船以外でもタービンなど個別設計を行う工業製品では造船と同様に設計ワークフローに注目した知識管理の手法が有効と考えられる。
本会は、このような産業ドメインに深く根ざした知識・技術・技能の伝承支援をワークフローに基づいた記述により実現する方法論の確立を目的とする。また、熟練者の持つ知識・技術・技能を記述できる情報システムを開発し、企業での実務を通じてその有効性の検証を行う。情報システムの開発にはオープンソースソフトウェアの開発プロセスやソフトウェアコンポーネントを活用することで、スムーズな成果の実用化を目指す。これらの活動を通じて、製造業および人工知能研究の発展に貢献したい。

3. 取り扱う範囲

具体的には、ナレッジマネジメント、知識コンテンツや意思決定支援のための情報システムの実証実験・ケーススタディを主な対象とする。また、情報システムと協調して知識を有効活用する組織の施策など人間系も含めて研究対象とする。製造業や情報システム産業での取り組みに重点を置くが、得られた成果は積極的に他業種へ展開していく。以下のような分野と特に関係が深い。

  • 製造業
  • 情報システム産業
  • 知識・技術・技能伝承
  • 設計プロセス
  • 複雑なシステムの設計
  • 技術教育
  • 知識コンテンツ
  • ナレッジマネジメント


4. 活動計画

  • 幅広いドメインの専門家の参加を促すため、発表・参加資格は問わない
  • シンポジウム・研究集会の開催は年に3〜4回を予定している
  • 研究集会は、一般の研究者と実務家による研究発表を中心とし議論を重視する
  • 研究内容に応じてプレゼン・デモなど発表形式は柔軟に対応する
  • 参加者の知見を広げるため、関連研究者・実務家の招待講演を企画する


5. 研究会運営組織

科学的・工学的立場の研究者はもとより各分野の実務家に至るまで、大学・企業の別を問わず幅広い領域から構成する。

  • 主査 稗方和夫 (東京大学大学院新領域創成科学研究科)
  • 主幹事 古川慈之(産業技術総合研究所)
  • 幹事 青島大悟(株式会社ツールラボ)
  • 幹事 坂口憲一(株式会社テクノソリューション)
  • 幹事 松尾宏平(海上技術安全研究所)